2009年4月8日水曜日

asahi shohyo 書評

〈本の舞台裏〉大きい字の千円文学

[掲載]2009年4月5日

  「デカい活字の千円文学!」という単行本シリーズが、書店に並んでいる。ジグソーパズルなど玩具の企画開発や製造、販売が本業の「やのまん」(本社・東京 都)が、第1弾として刊行した『芥川龍之介 羅生門』『太宰治 人間失格』『夏目漱石 こころ』『宮沢賢治 銀河鉄道の夜』の4点だ。

 本業のエンターテインメント産業から、不況といわれる出版業への進出だが、矢野成一社長(56)は「少子化で6千億円といわれ る玩具市場が縮小する中で、不況とはいえ年間2兆円の出版市場はビジネスチャンスがある。それに、本だって昔からエンターテインメント産業だった。違和感 はありません」と話す。

 「大活字本」はこれまでもあったが、高齢者や弱視者にやさしいという福祉面が強調されてきた。大切な試みなのだが、少部数の本が多く、それだけ高価格にせざるをえなかった。「千円文学」と銘打つことで既存の出版物のすき間をつく狙いも、「やのまん」にはあるようだ。

 1文字の大きさは約4ミリ四方で、行間も約4ミリ。通常の単行本サイズでは1ページあたり15行から18行が多いが、このシリーズは13行。出版担当の高橋憲一郎さん(61)は「団塊の世代が、電車の中でもゆったり読める本を出したかった」と語る。

 最初は1200円から1400円にする予定だった。だが、市場調査で「客が本屋で衝動買いをする金額は千円以内」と結果が出て、「商機は千円」と考えた。著作権が切れた作品を選ぶことが、安くできる大きな理由だ。

 団塊世代を狙った企画だったが、うれしい誤算は学生など若い世代も「読みやすい」と買っていくことだという。読者からは「次は 森鴎外や川端康成の作品を」と要望も届き始めた。図書館流通センターの幹部に「子供たちに読ませるのに一番いい活字サイズ」と評価されたことで、全国の学 校図書館へのPR活動も始めるそうだ。(西秀治)

表紙画像

芥川龍之介 羅生門 (デカい活字の千円文学!)

著者:芥川 龍之介

出版社:やのまん   価格:¥ 1,000

表紙画像

夏目漱石 こころ (デカい活字の千円文学!)

著者:夏目 漱石

出版社:やのまん   価格:¥ 1,000

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